暮らすがえジャーナル

こんにちは、暮らすがえジャーナルです。
今回の暮らすがえジャーナルは海外出張編。東京から遠く離れたポルトガルのリスボン郊外で暮らす日本人のショウタさんとモルドバ生まれでポルトガルに移住したウクライナ人サナさんご夫妻に、竹内香予子が会いに行ってきました。
ショウタさん
東京外国語大でポルトガル語を専攻後、旅行代理店や商社、VC等で勤務。リスボン大学に留学した時にサナさんと出会い、遠距離恋愛なども経て結婚に至る。
サナさん
リスボン大学でアジア文化を勉強した後、早稲田大学にも語学留学。ワーホリで日本のアパレル企業や飲食店で勤務した後、ショウタさんとともにリスボンへ。

二人が住むのは1980年代に建てられた1LDKのマンション。
建具は竣工当時のものがそのまま使われていて、壁や扉には趣のある味わいが感じられます。
家に入ると、お菓子を焼く甘い香りがふわりと漂い、優しい笑顔のご夫婦が温かく迎えてくれました。


――お二人は最初、東京に住まわれていたんですよね?どうしてリスボンに来られたのですか?
ショウタ
東京では本当に毎日が忙しくて、自分たちの心や空間に『余白』がまったくなかったんですよね。ここに移住してくる前、6年間くらいは埼玉の40平米くらいのマンションで二人で暮らしていました。
二人とも都内に通勤していたので、朝起きてすぐに仕事の準備をして、満員電車に乗って職場に通い、帰宅しても翌日のことを考えてすぐに寝る、そんな繰り返しの日々でした。
何をするにも常に時間に追われている感覚があって、精神的にとても疲れてしまいました。
そういう環境を手放して、自分たちらしい生活をしたいと強く思ったのが大きな理由ですね。
――具体的に東京で窮屈に感じていたのはどんなところですか?
ショウタ
特に満員電車の通勤が一番つらかったです。毎日ギュウギュウ詰めで、通勤だけでかなりのエネルギーを使ってしまいました。
あと、人の目を気にすることが多かったように思います。
日本ならではかもしれませんが、周りに合わせるのが当たり前になっていて、自分が本当にやりたいことや考えを素直に表現するのが難しかったんです。
サナ
特に私は日本人ではないので、いろいろな場面で日本人との間に壁を感じることがありました。日本は大好きだったのですが、どんなに日本社会に馴染もうとしてもその壁がなくならないような気がして。
――確かに、周りの人に合わせていくことは、日本らしい一方で息苦しいと感じることもあるかもしれません。リスボンに来られてよかったことはどんなことでしょうか?
ショウタ
まずは、人との程よい距離感ですね。ポルトガルの人たちは良い意味でお互いに干渉しすぎず、それぞれが自由に自分らしくいることを認めてくれる雰囲気がありました。
移民も多いので、違いを受け入れる文化的土壌があります。そういう環境での人間関係は僕にとっては居心地がよく、ストレスが少なく感じられました。
あとは、時間と空間のゆとりですね。現地の会社に就職したのですが、こちらでは16時には仕事を終えて余暇の時間を楽しむ文化があるので、夫婦でゆっくり過ごしたり、友人とスポーツを楽しむ余裕ができました。
少し郊外に住んでいるのですが、家の近くには海辺やカフェがたくさんあって、ちょっと散歩をしたりのんびりと過ごす時間も増えました。

サナ
私は製菓学校に行きたいと思ったこともあるくらいお菓子作りが好きなんです。
こちらに来てからは、休日に私がお菓子を焼いて家でカフェタイムを楽しむゆとりも生まれました。これは本当に大きな変化です。



――今の住まいで自分らしく過ごせる場所はどこですか
ショウタ
このソファーで二人でくつろいでいる時かな。
目の前にはサナの友達が結婚式の時にプレゼントしてくれた絵や、二人の思い出の写真、サナの親族を訪ねてウクライナに行った時に買ったマトリョーシカが置いてあります。
そんな思い出に囲まれながら、このソファーに座って、映画を見たり本を読んだりして過ごしている時間が好きですね。


サナ
私は家の外なのですが、歩いて10分くらいの場所にビーチがあって。
週末はそこでパラソルを置いて日光浴をしたり海に入ったりしてのんびり過ごすのも大好きです。ポルトガルには家の外にも居場所があるんですよ。


――お二人が心身ともに余白を楽しんでいらっしゃる様子が伝わってきます。この先、どんな暮らしをつくっていきたいなどありますか?
サナ
私はゆったりと過ごせるベランダが欲しいですね。
この国ではベランダは洗濯物を干す場所というより、お茶を飲んだりリラックスする空間として使われることが多いんです。そこで朝ごはんを食べたりしたいな。
ショウタ
僕は、実は無駄が大嫌いで、家事動線の改善がしたいんですよね。
ポルトガルには日本みたいな便利グッズがないので、突っ張り棒とか日本から取り寄せて、暮らしを効率的にする工夫もしてみたいです。
――最後に、ポルトガルに移住して気づいた「幸せ」って何でしょうか?
ショウタ
一番大切なのは、自分たちが無理をせず、自然体でいることだと思います。
華やかさやSNS映えするような暮らしがなくても、自分たちが心地よく、ストレスなく過ごせる環境が本当の幸せなんじゃないかなと感じています。
十人十色、誰もが自分らしい暮らしを見つけて、自分のペースで生きられることが豊かさだなと、ポルトガルで改めて強く感じました。
編集後記
今回出張でリスボンに行くことがあり、その機会を生かしてリスボンでの暮らしを見せてもらおうと、友人介してショウタさんご夫妻とコンタクトを取りました。
ご自宅に行くと、ケーキの甘い香りがふわり。お二人の大切にしている時間が、そこに現れている気がしました。
まだ賃貸住まいなので、家具など家財道具は手ごろなものを買いそろえているだけとおっしゃっているのですが、そこには二人が心からリラックスでき自分らしく過ごせる空間が存在していました。
将来はカフェを開きたいと話すお二人。自分たちの居場所ができたことで、未来に向けて着実に踏み出している、そんな印象を持ちました。場が行動を変え、行動が人生を変える。お二人の暮らしを通じてそんなことを感じました。