暮らすがえジャーナル

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【HEIAN DIALOG#01】社会的価値と経済的価値をいかに両立させるか?イベントレポート

こんにちは、暮らすがえジャーナルです。
今回は、7月末に行われた【HEIAN DIALOG#01】社会的価値と経済的価値をいかに両立させるか?のレポートをお届けします。

企業が売り上げを得るために経済的価値のみを追求すると、収益性が高い事業に偏りがちです。
一方で、防災や環境問題などの社会的課題は、必ずしも収益性が高くないため、営利企業が取り組みにくいという現状があります。

しかし、私たちはビジネスを通じて社会課題を解決すること、社会的価値と経済的価値の両立を模索しています。
今回は、Patagonia出身でコンサルタントとして活躍する但馬武さんをお招きし、その方法を探求しました。

但馬武(たじま たけし)さん

fascinete株式会社 代表取締役社長

企業単位で環境保全に取り組むパタゴニア日本支社で19年間、ダイレクトマーケティング部門統括を中心に勤務。
パタゴニアを退社したのち、地域活性化を目指す企業や地方自治体にて、ビジネスを生み出すさまざまなプロジェクトに参画。
現在は熱狂的ファンを創り出すfascinete株式会社を創業し、「愛される企業 Lovable company」を創るサポート。

ファシリテーター:大川昌輝(おおかわ まさき)

平安伸鋼工業株式会社 Chief Experience Officer(以下、CXO)

20代で編集者やマーケティング、酒造りといろいろな経験を積んだのちに平安伸鋼工業に就職。
モールEC(Amazon)の責任者を経てブランドマネジメント制度を設立しブランドマネージャーを務めるなど、平安伸鋼工業の価値を格上げするために奔走中。
ものを作るのではなくお客様の体験を作ることを重視していくという平安伸鋼工業の方向性を強固にすべく、会社の体験設計を統括するCXOに就任したばかり。

平安伸銅工業の現在地:”三方良し”を探る

大川昌輝(以下:大川):平安伸銅工業のビジョンのもと、ミッションを形にしていくために、私は3つのエクスペリエンスを高めることが必要だと考えています。

EX(Employee Experience)…働く人の体験
UX(User Experience)…ユーザーの体験
SX(Social Experience)…社会の体験

この三方良しを実現し、最終的に社会の満足度を高めていく、これが平安伸銅工業の目指す形です。

働く人の体験(EX)を高めることは「暮らすがえ」の文化を高める(=社会の体験(SX))一環になり、ユーザーの体験(UX)を高めることにつながると考えています。
そうすることで、再びEXも高まる。
この循環を促す体験設計が必要なのですが、スタッフの満足度は目標とするものにはまだ遠いのが現状です。

また、社会の体験(SX)を高めるため、サステナビリティの取り組みを重視して、平安伸銅工業のできることを発信しています。
実際に、ポリプロピレン不使用の商品や、梱包資材を使用しない商品など行っている取り組みもいくつかあります。
しかし、プラスチックを多く使用しているなど、課題もまだまだたくさんあるのが現状です。

「私らしい暮らし」が実現する社会的価値とは

大川:私たちは、「私らしい暮らし」という社会的価値を届ける方法を模索中で、具体的にどうすればよいかという考えには至っていません。
どのようなアプローチができるか、但馬さんの考えをお聞かせいただければと思います。

但馬武(以下:但馬):そもそも、どのビジネスモも基本的には社会的課題を解決しているんですよね。
御社の場合はつっぱり棒を広く普及させることで行動経済成長期に発生した収納不足という課題に対応してこられました。

でも、時代は大きく変わってきています。
例えば高度経済成長期ではテレビや冷蔵庫が家にあることが豊かな暮らしとされてきましたが、今、僕の息子はテレビなんて見ていません。
そうやって豊かさの定義が変わっていく中で、そこで発生する新たな社会的課題にどう対応していくのか、ということが今回のお話なんだと思います。

大川:そういう意味でいうと私たちが社会に提供したい価値は「私らしい暮らし」なのですが、この「私らしい暮らし」ってぼやっとしているというか、人によって思い描くものが違うので、具体的なビジネスに落とし込むには少し遠いんですよね。
ここの解像度を上げていくことが必要なのかなと思っています。

但馬:個人的にですが、御社の「私らしい暮らし」は”自己受容感”という課題に対してアプローチができるのではないかと思っています。

大川:自己肯定感ではなく自己受容感なのには何か理由があるのですか?

但馬:そうですね、自己肯定感というとなんだか失敗したら受け入れられないような重い感じがするので、あえて自己受容感という言葉を使っています。
自己受容感とは、自分の強さも弱さも理解したうえで受け入れるという意味。
弱いところもひっくるめて私は私だ!と思えると、たとえ失敗してもその状況も受け入れることができる。
自己受容感の高い人を増やしていくことが、「私らしい暮らし」を実現したいと思う人を増やす第一歩かなと思います。

私もいろんな企業を通じてさまざまな社会課題に向き合ってきたのですが、日本人って自己受容感がとても低いなと感じているんです。
日本ってイノベーションが起こりにくいんですよ。
その理由は自分のことを尊重しない風潮だと思っています。

苦しみや悲しみから、改善したいという思いで動くイノベーションもありますが、ありがたいことに先人たちの努力によって現代を生きる私たちがそういう思いをすることも減っていきました。
さらに社会を良い方向に改革していくには、「こんなことをやりたい!」と欲しい未来に向かってわくわくしながら新しいものを生み出していくことが必要なのですが、大前提「私なんかにできない」と思っていたら何も生まれないですよね。

但馬:そんな自己受容感を高めることに、大切なのが手を動かす行為だと思っていて。

僕も畑やDIYをやっているのですが「こんな私でも農作物を作れた」「私でも机ができた」という体験って、自己受容感がとても高まるんですよね。
御社の製品はまさに手を動かすもの。
私らしい暮らしを作っていくことが、自己受容感をあげることにもつながるのではと思います。

大川:なるほど。確かに、私はユーザーの方にインタビューする機会が多いのですが、お部屋づくりにこだわられている方の話を深ぼると「社会生活が厳しいから、家にいるときくらいは自分を好きでいたい」という思いが根本的にあるなと感じています。
まずはメンバー自身が自己受容感を持って「私はこれが欲しい」「こういう暮らしを作りたい」と思うことが大事だなと感じました。

但馬:おっしゃる通りで、スタッフの皆さん自身が個人的な思いを持ってアプローチしていくのが良いと思っています。
ビジネスモデルの打率は正直2割くらいのもので、成功するかどうかはやってみないことにはわからない。
だからこそ、アイデアを出したらまずは自分がわくわくするかどうかで判断することが重要だと思っていて。

例えば、高齢者のためのビジネスモデルの場合、高齢者を助けたいという気持ちから入ってしまうと、正しさや合理性に視線が向いてしまいますし、市場調査だけで考えてしまうと頭でっかちになりがちです。
でも、自分がわくわくするアイデアで、なおかつ心からおすすめできるような商品やサービスでないと、自信を持って提供することができないですよね。

合理的であるかという点よりもわくわくできるかというところを自問自答して、自分の幸せやわくわくする気持ちを追及できるようなスタッフが育てば、平安伸銅工業さんの成長にもつながるはずです。

経済的価値と社会的価値は両立しうるのか

大川:ありがとうございます!今回のイベントのテーマである経済的価値と社会的価値との両立について、但馬さんはどう考えていますか?

但馬:そうですね、僕はそもそも「社会課題の解決は儲からない」という考え方自体が信じられないと思っています。
そもそも企業活動って何かを解決する社会活動そのものなので、両立するのは当たり前なんですよね。
それをどう収益化させるのかは、ビジネスセンスだと思っています。
やりたいことに対して、どう儲かるかをめちゃくちゃ考える。
利用者からお金をもらうのか、国からなのか、あるいは寄付モデルを作るのか。

大川:確かに、考えつくしているかどうかは、とても大事ですね。
社会的価値の作り方も、儲かってはいけないとか、偏った発想で見ていた気がします。
そうではなくて、ビジネスの観点でも成り立たせるんだという思考の粘りを求められているなとは思いますね。

但馬:まずは商品を提供するスタッフの自己受容感を高めて、自分の幸せは何なのか考えながら、ニッチなまなざしをもって社会価値と経済価値の両立を考えるのが平安伸銅工業さんらしいアプローチではないでしょうか。

アプローチにはいろんな方法がありますが、もう一つ、私はファンベースをつくることも併せて必要だなと思っています。
熱狂的なファンがいてくれればチャレンジングな商品開発ができるなど、勇気のある行動ができるんです。
好きでいてほしいという姿勢ではなく、一緒に夢を追いかけようというスタンスです。
ぜひ「一緒に新しい暮らしを作りましょう!」というスタンスを持って、平安伸銅工業さんのファンを増やしていってください。

みんなの感想は?

今回は平安伸銅工業大阪本社とオンラインをつなぎ、社内外のメンバーが遠隔からも参加。
トークディスカッションで但馬さんの話を伺ったあとは、ダイアログの時間を設けました。

ダイアログでは、但馬さんの話をもとにそれぞれ感じたことを自由に話していただきました。

みなさんの声をいくつか抜粋してご紹介します。

■日本人は自分を好きでない傾向にあるというのは、私も海外に住んで身をもって実感したことです。
ドイツ人と日本人を比べると、自己受容感や自己肯定感があまりに違う。
自分を優先するドイツ人とふれあい、価値観が変わりました。
たしかに、日本人の自己受容感を高めるのは大きな課題だと思います。
また、どの商品を選ぶか考える際、機能だけではなく、情緒的な部分も大きく影響するので、ファンベースという考え方にはすごく納得しました。

■但馬さんのお話を聞いて、これまで形が曖昧だった「私らしい暮らし」の解像度が高まりました。
社内からだけでなく社外からも意見を募って、よりよい形を模索していけるとよいのかなと思います。

■社会的価値というと一見難しいことのような気がしますが、自分もこの社会の一員だということを理解して、何がしたいのか考えていくことが大切なんだなと、今日の話を通じて感じました。
パーソナルなところから快適さを重視していくことで、お客様や社会にも広がっていくことを願って、まずは自分がどうしたいのかを語り合えるような会社を目指せたらいいのかなと思います。

但馬さんから最後のメッセージ

僕は、小説「ハーメルンの笛吹き男」のように、欲しい未来に向けてお客様を巻き込んで社会を変えていくこともできるのかなと思っています。
たくさんの会社があり、技術だけ抜きんでるのは正直難しい。

では、どうやって選ばれる会社になるかというと、ユーザーの情緒を動かせるかどうかにかかっていると思っていて。
技術に加え世界観や想いといったプラスαの部分を押し出し、みんなで楽しみながら会社を盛り上げていけたらよいのかなと思っています。

本日はどうもありがとうございました!

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