暮らすがえジャーナル

平安伸銅工業がお送りする、連載コラム。
私たちのビジョン「アイデアと技術で『私らしい暮らし』を世界へ」にある「私らしい暮らし」について、深堀していきます。
企画書を手にして、琥珀街へ
「南吹田琥珀街がさらに活性化できると自負しています。」
不動産会社にそんな一文を添えて、もう一度だけ丁寧に、アポイントのお願いをしてみた。
しばらくして、アポイントの候補日が添えられた返信がきた。
会っていただける!カレンダーを見ると自分の予定を調整する必要はあったが、この機を逃してはならないとアポイントを取った。
でもふと思った。
このチャンスを活かすには、自分の想いや計画を、きちんと言葉にしないといけない。
勢いだけじゃ伝わらないものもある。
だから、「企画書」をつくろうと決めた。
自分がこの場所でやりたいこと、関わりたい理由を整理しておきたかった。
うまくいくかどうかはわからないけど、やれることは全部やってみたい。
そんな気持ちで、手を動かし始めた。
内覧当日。そして、川端さんとの出会い
迎えた当日。琥珀街へ。
天気もよくて、ちょっとした遠足みたいな気分だった。
案内してくれたのは、不動産会社の川端さんという方。
なんと、無精髭に、後ろで髷を結っていて、サルエルパンツにサンダル。
どこか多国籍な空気をまとった風貌で、ちょっとびっくりしてしまった。不動産会社の人って、だいたいビジネスカジュアルが定番だから。
でも、話してみたらすぐに納得。
とてもオープンで気さくな方で、この琥珀街の雰囲気にマッチしていた。
内覧の合間に、「こんなことをやりたいんです」と、持参した企画書を片手に想いを伝えてみた。
「いや〜、企画書なんて持ってくる人、初めてやわ。」
と川端さんは笑う。
でも企画書を眺めて色々話していくうちにこうも言われてしまった。
「ずっと君がいてくれるといいんだけど、無人運営は大家さん的に難しいもしれない。」
そうか、人件費をいかに最小化することだけを考えてしまっていた。
そこをクリアするにはいろんな手段が考えられるが、調整するのに時間がかかる。
すでに他にもこの物件を検討している方がいて「これ以上待ってくれと言うことはできない」とのことなので諦めざるを得なかった。
不動産の”常識”にとらわれないモデル
ただ、せっかくなのでと琥珀街の中を案内してもらえることになった。
川端さんは、ドアから中を覗いて、人がいるのがわかると「こんにちは」と勝手に開けて入っていく。
そのまま親しげな様子で、入居者の方に僕を紹介してくれた。
普通の不動産会社は物件の契約が成立すればそれ以降顔を合わせることは無く、何かあれば管理会社との事務的なやりとりになるはず。
なのになぜ、不動産会社の川端さんと入居者の方々が、昔のご近所づきあいのような、妙にあたたかい関係性になるのか不思議だった。
最後に、大嶋さんという方のオフィスを訪ねた。
琥珀街の物件を初めて借りた方なのだそう。
オフィスのはずなのに、大嶋さんはカレーを作っていた。
どうやらその日は住人みんなでカレーを食べる日らしい。
「食べてく?」
初対面なのに、カレーをいただいた。ありがたすぎる…。
住人達とカレーを食べながら川端さんになぜ入居者の方とコミュニケーションを取っているのか聞いてみた。
普通の不動産業は、街やマンションをつくっていくとき、物件の建設、仲介、管理、それぞれ役割ごとに会社を分けて効率化を図る。
けれど、川端さんは街をコミュニティとして機能させるため、物件の企画から管理までを一貫して実施しているのだそう。
経済合理性を考えれば、システマチックに効率化していくことは大事だ。
そういう意味では、この琥珀街はすこし非合理なのかもしれない。
けれど、街の中で人がちゃんと繋がり、少しアクセスが悪くても、あたたかくて、豊かで、住んでみたい場所だなと感じる。
「こうしなきゃいけない」「この方が効率的だから」そんな常識から少しだけ距離をとってみれば、街も、暮らしも、もっと自由になれるのかもしれない。
「来週、住人の送別会があるから、空いてたら来る?」
川端さんから誘われた。
企画書の反応は正直、そこまで手応えがあったわけじゃない。
でも、「街人」としてちょっと受け入れてもらえたような、そんな感覚があった。
次回、その送別会でまさかのチャンスが巡ってくる。