暮らすがえジャーナル

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「試すこと」を応援する社会へ。平安伸銅工業とTENTの青木亮作が語る、途中経過を楽しむあり方とは。

こんにちは、暮らすがえジャーナルです。

今回は、平安伸銅工業の中のお話。
これまで『DRAW A LINE(ドローアライン)』などで共創してきたTENTの代表・青木亮作さんが平安伸銅工業のCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)に就任。10年にわたる関係を経て「外から」ではなく「中から」共に未来を描くことになりました。
今回は、経営者の竹内香予子と常務の一紘、そして新CCO、青木亮作さんに就任の背景とこれからを聞きました。

写真左から 常務取締役:竹内一紘、CCO:青木亮作、代表取締役:竹内香予子

これがいい!自分視点のものづくり

――今回、青木さんがCCOとして加わることになった背景は?

竹内香予子(以降:かよ):
原点はやっぱり「DRAW A LINE」の成功体験。青木さんたちTENTのみなさんとご一緒したとき、ほんとに楽しくて。メンバーからアイディアもたくさん出たし、すごくチームの雰囲気が良い形で開発が進んだんですよね。改めて、その体験を一過性のものにせず、会社として連続的につくりたいなと思ったんです。

竹内一紘(以降:かず):
「DRAW A LINE」のあとも、次は何を一緒に作ろうかっていう会話はずっとあったんです。でも、もうプロジェクト単位の発注・受注っていう関係じゃないよね、って感覚がだんだん強くなっていって。価値を届けたい方向がこんなに重なってるんだったら、いっそもう一緒のチームでやろうよという流れになり、外からアドバイザー的に関わってもらうよりも、中から動ける形──CCOとして入ってもらう、というのが一番しっくりきたんですよね。

かよ:
それともうひとつ大きいのが、私たちが1ユーザーとしてTENTさんのプロダクトが本当に好きだということ。開発のアイデア出しのために、100円ショップのものから高価格帯のものまで、いろんな樹脂製品を買って試した時期があったんですけど、最終的に「暮らしの定番として家に残したい」と思えたのが、TENTさんのプロダクトだけだったんです。

かず:
TENTさんのプロダクトって、形が美しいだけじゃなくて、使う瞬間に料理とか生活が主役になるんです。それって僕らがやりたいことにすごく通じてるんですよね。

青木:
こんなに褒めてもらって大丈夫なんですか(笑)。すごく嬉しいです。
僕はずっと「道具は脇役でいい」と思ってます。使う人の時間が豊かになること、使う人がかっこよく見えること。それができないなら作る意味はないと思ってます。
昔は「こういうペルソナを想定して…」みたいに誰かに向けて設計していた時期もあったんですけど、いざ出来たものを自分が家であんまり使わなかったりして。逆に「自分や家族が心から欲しい」「自分が好き」と思えるものをつくったときのほうが、圧倒的に人の心が動くんですよね。

かず:
すごく共感します。今の平安も、「自分たちが本当にいいと思うものを、自分たちの言葉でちゃんと伝えていこう」を軸に据え直しているタイミングなんです。
“自分はこれがいいと思う”をちゃんとIメッセージで言うこと。それを体現しているのがまさに青木さんなんですよね。

――Iメッセージで伝える手前に、「自分たちは何がいいと思うのか」を感じ取ることも大事な気がします。青木さんがふだん意識されていることはあるんですか?

青木:
とにかくたくさん試作をして、自分で使ってみることを大事にしています。僕も含め、TENTのメンバーは自分たちでつくったものを自分たちでめちゃくちゃ使うんです。徹底的に使い倒して日々検証してるから、自然と自分たちが一番使いやすいものになっていくんですよね。

かず:
青木さんは何かプロジェクトを進める中でも「こうしよう」って話した瞬間から、契約がどうこうとかじゃなくて、次の打ち合わせにはもう試作がある。誰も頼んでないのに(笑)。勝手に次の案がどんどん出てくるんですよね。

青木:
ついやっちゃうんですよ (笑)。

かよ:
その「ついやっちゃう」が、めちゃくちゃいいですよね。頭で考えるよりも、まず手を動かす「試作」をやってくれる人が、社内にちゃんといてくれることが本当に大きいなと思います。

10年を経て戻ってきた。平安伸銅工業の原点 「やってみる」

――青木さんが新たに仲間に加わることに、お二人はどんな期待を持っていますか?

かよ:
私にとっては、自分をもう一度解き放ってくれる人だなという感覚ですね。

もともとの私は「まず試そうよ」というタイプで、入社当時はまず試作のための場所づくりから始めました。作業台を置いて、工具をそろえて、誰でも触れるスペースをつくって、「とりあえずやってみよう」と言える空気を用意したんです。

でも、あるタイミングから“再現性”という言葉を強く意識しはじめました。経営者としてプロセスを整えて、数字を整えて、再現できる型をつくらなきゃと。もちろんそれは経営としては大切なんだけど、同時に、かつて自分が全力で好きなものを発信していたときのエネルギーが、どんどん弱っていったんですよね。

――トップの熱量は会社全体にも影響しそうですね。

かよ:
本当にそうなんです。だから今はもう一度、“自分が面白いと思うことに没頭する”ほうに戻ってみようと思っていて。青木さんは、「作ってみよう」という試作を常にされているので、自分自身の原点を思い出しました。

かず:
いま社内でよく出てくるキーワードが「自我と自意識」なんですけど、すごく大事なのは順番だなと思ってて。平安は、もともと「お客さんがこれ欲しいと言っているから、こういうものを作ろう」というあり方、つまり自意識が大きな柱としてあった会社なんです。それはもちろん大切。でも、「自分たちはこういう暮らしがいい」っていう自我、つまり自分たちが心からいいと思うことをまずちゃんと出して、そこから「どうやって届ける?」「どうやって続ける?」を考えることも大事なんじゃないかなって思っています。

――その実験の場が「暮らすがえ」チームなんでしょうか?

かず:
まさにそうです。まずは小さく形にしてみる。青木さんには、その実験に伴走してもらっている感覚があります。

――先日の全社総会で青木さんが実施された段ボールを使った即席ものづくりワークで、みんなが夢中になって手を動かしてた姿が印象的でした。まさにあの雰囲気が「試作」ですよね。

青木:
あれ、よかったですよね。あの盛り上がりを見てすごくポジティブな土壌があるなと思いました。“よくわからんけど、とりあえず作ろか”っていう動きが、あんなに自然に出てくるチームって本当に強い。

かず:
あの姿は僕も嬉しかったですね。これまで僕らはちょっと頭でっかちになっていたところがあったのかも。“暮らすがえって何?”って言葉でずっと考え続けて、ぜんぜんまとまらない…みたいな。

でも今は、自分たちがいいと思うものをまずつくってみる。その先に“暮らすがえ”があるんじゃないかという感覚に戻ってきました。
この10年巡り巡って、いろんなことを身につけて、もう一回“やってみる”という原点に戻ってきた感覚です。

お互い「はみだし合ってる」くらいがちょうどいい

――では、これからは全社で「やってみる」=「試作する」方向に変わっていくんでしょうか?

青木:
会社の全員が意思を統一していっせーので変わっていくというよりは、各々で自由につくっていけばいいんじゃないかな。っていうのも実はかよさんと僕はタイプが全く逆で、でもこの違いがある方が面白いと思ってます。かよさんは「人は感情でできている」と思ってる。人は感情で動くから、言葉でちゃんと伝えることが大事だ、と。僕は真逆で、「人は環境でできている」と思ってる。そして態度で伝えることが大事だ、と。僕らのように社内でもタイプは分かれていると思います。個々のタイプを無視して、全社でこうしよう!とくくってしまうと、せっかくあるこの面白さを活かせない気がするんですよね。

かよ:
確かに、私と青木さんのタイプはぜんぜん違う(笑)。

青木:
全然違うんですけど、それでいいと思ってます。歩み寄って中間をつくろうとすると、どっちにも届かないものができちゃうから。かよさん側のアプローチが届く人は絶対いるし、僕のアプローチが届く人もいる。だから、お互いが妥協せず全力でやるほうが絶対いい。

――でもそれだとぶつかっちゃうんじゃ?

青木:
もちろん、ぶつかることはあります。でも、むしろバチバチしてるくらいがちょうどいいと思うんですよね。
お互い少し線をはみ出して、「それちょっと出すぎじゃない?」って言い合える関係がいちばん健全かなって。ちょっとした不協和音も、「カルチャーが違うわ〜(笑)」って笑い飛ばせるくらいがちょうどいい気がします。

かず:
僕からみると2人はタイプが違うけど、平安伸銅が向かう方向性という意味では同じ方向を向いているんですよね。だからぶつかるくらい、思う存分お互いに自我を出したらいいんじゃないかな。その上でもし途中でわからないことがあればお互いちゃんと言える関係が理想ですね。“わからない=否定”じゃないっていう文化があったら、お互いの個性を活かしあえる面白い会社になるはず。

夢中で「試作」。その結果、私らしい暮らしが世界へ広がっていく

――ここまで「試す」という話がたくさん出てきました。それが会社の外、社会にまで広がっていくとしたら、どんな未来を描いていますか?

かず:
僕は「試す」という言葉に、すごく希望を感じてるんです。これまで会社として“挑戦・冒険”という言葉も掲げてきたんですけど、その響きって、どうしても「大きくやらなきゃいけない」みたいに聞こえるときがある。でも、本当はもっと小さくていいと思ってます。
たとえば「今日だけあえて左手でご飯を食べてみる」とか、「リビングで寝てみる」とか。それだけでも、気づきってあるじゃないですか。「こっちのほうが落ち着くんだ」とか、「意外とこれ嫌いじゃないな」とか。
「試す」が増えていけば、それ自体が新しい暮らし方の芽になると思うんです。

青木:
すごく共感します。最近はAIも普及してきて、正解を探すのがどんどん簡単になっている時代じゃないですか。でもそれって同時に、間違う余地がなくなってるってことでもあるんですよね。それがものすごくもったいない。
正解って基本的に蓄積にならないんですよ。でも、間違いは蓄積になるんです。料理だったら「塩ちょっと多すぎたな」とか、空間だったら「机をここに置いたら邪魔だったな」とか。そういう失敗って、自分の感覚としてちゃんと残っていくんですよね。それが次の一手を変えてくれる。間違いを許さない社会は、たぶん面白くなくなるし、息苦しくもなる。だから、自分たちも試すし、それが波及して試す人を応援できる社会になったらいいなと思います。

かよ:
試すって今を楽しめるマジックワードのような気がするんです。正解にすばやくたどり着かなきゃいけないみたいに思いすぎると、人って一歩も動けなくなる。でも、「いま試作中なんで」って言えると、軽く動ける気がしますよね。子どもの頃のごっこ遊びみたいな感覚に近いかも。

――たしかに、「試す」って言葉はなんだか気持ちが軽くなりますね。

かよ:
暮らしも一緒で、完成形を固定して守り続けるものじゃなくて、ずっと“更新中”でいいと思うんです。常に変化してて、それを楽しんでる感覚ですかね。そういう社会の方が生きやすい人も増えるんじゃないかな。
だから私たち自身がまず、試してる当事者でありたいんです。その姿をみて、誰かが「そんなふうにやっていいんだ」って、自分の暮らしをもう一度見つめなおすきっかけになるかもしれない。結果的にそれが“私らしい暮らし”につながっていくと思うんです。

――「私らしい暮らしをつくろう」と最初から旗を立てて走るんじゃなくて、いま目の前で自分たちがちゃんと試していること、その積み重ね自体がビジョンの達成につながるんですね。

かよ:
そう、そんな感覚です。誰よりも試作する青木さんが仲間になってくれたことで、「まずやってみよう!」という空気が社内にもどんどん広がっていく気がしています。これからが楽しみですね。

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