暮らすがえジャーナル

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■RTB(アールティービー)
平安伸銅高校2年生、自称イケメン。
クラスメイトで隣の席のあなたをからかってくる
チャラチャラして頼りがいが無いと思っていたが
どうやら過去にあなたと何かがあった様子…?
「ねー!見てみてこの雑誌!」
昼休み、友達が持ってきた雑誌には『読者モデルたちのボタニカルスタイルコーデ特集』の文字。
その中でも、見開き2ページで特集されていたのはスタイリッシュなDRAW A LINE。※

「この子、超かっこよくない?整cataso(せい・かたそ)学園の2年生なんだって!」
友達の言う学校は、すぐ近くの私立高校だ。
「へーそんな近くにこんなかっこいい子がいるんだね。」
SNSとかやってないのかな??と友達は興奮気味だ。
「これだけ近いと電車で一緒になるかもだよね、ちょっとテンションあがるかも。」
「でしょ、でしょ。ちょっと隣のクラスにも情報収集してくるね!」
そう言って慌ただしく教室を出ていく友達。
確かに、かっこいいつっぱり棒だったな・・・。
「チッ・・・。読者モデルって、ただの素人じゃねぇか。」
横からつまらなさそうな声。
見ると、隣の席のRTB(アールティービー)が面白くなさそうに椅子に斜めに腰かけている。
RTBはクラスメイトで、隣の席のいけ好かないつっぱり棒。※
こんな風にしょっちゅうちょっかいをかけてくる。

「いや、かっこいいじゃん。」
「そんなこと言ったら俺だって黒だし。」
「これでも後輩には結構モテるんだぜ?」とくるくるとキャップを回す。
「笑わせないでよ、モデルになるような子とあんたなんかとは大違いよ。」
「うるせぇ、向こうだってお前みたいな授業中寝るような女、願い下げだぞ?」
「ひっどーい!寝てたのはたまたまだもん!」
「ま、次の授業も寝ないように気を付けるんだな、これでも食べとけ。」
とRTBはラムネを投げて寄越して、キャップの先で私の頭を小突いて席を立った。
・・・ほんと、やな奴。
放課後―—――—―
部活を終えていつものように駅から高校まで歩いていた時だった。
「いたっ・・・!」
じわじわ痛みを感じていた部分に急激な痛みがさして足元をみる。
おろしたてのローファーが足に合わなかったのだろう、靴擦れを起こしてしまったようだ。
我慢して履き続けたせいか、足首の後ろ側には白い靴下にうっすら血が滲んでいる。
「いたた・・・どうしよ・・・。」
近くにコンビニやドラックストアは無いし、駅に向かうにも学校へもどるにも5分ほど歩かないといけない。
我慢して家に帰るか・・・と思った時、ふいに後ろから声をかけられる。
「あの・・・大丈夫ですか?」
振り返ると、黒くてまっすぐなつっぱり棒が立っていた。
(こ、この人、友達が見せてくれた雑誌に載ってた人だ・・・!!)
「あの、よかったら、これどうぞ。ローファーよりは歩きやすいはずだから。」
そういって彼は黒いスニーカーを差し出した。
「え、それはさすがに・・・」
「撮影のサンプルでもらったやつだから気にしないで。」
じゃあね、と彼はさっと去ってしまった。金色のネジが夕日に反射してきらりと光る。
すごい、見た目だけじゃなくて中身も王子様みたいな人だ・・・。
ありがたく少し大きなスニーカーに履き替える。少し歩きづらいけど、痛みはかなりマシになった。
・・・・・・がさっ!!
少し足を引きずりながら歩いていると、突然、腕をぐっと引っ張られた。
「きゃっ!」
路地裏に連れ込まれたらしく、見渡すと白い制服を着た女の子たちに囲まれていた。
これは確か、整cataso学園の・・・?
「ねえ、あんたDRAW A LINE様のなんなの?」
真ん中にいた気の強そうな女の子ににらまれる。
「何って・・・。」
「あんたみたいな奴が気安く喋ってんじゃないわよ。」
「あんたなんかDRAW A LINE様には釣り合わないんだから!」
「靴までもらっちゃって図々しい・・・!!!」
周りの女の子たちからも次々に言葉を浴びせられる。
どうしよう・・・。
その時、路地裏の角から黒い棒がすっと伸びてきた。
「おい、掴まれ!」
声に反応してとっさに棒に掴まると、そのままぐっと引き寄せられる。
「RTB!?」
「いいから走るぞ!」
そのままRTBに引っ張られるようにしてその場から駆け出した。
「ちょっと、待ちなさいよ!!」
「あんたどんだけつっぱり棒はべらせてんのよ!!」
女の子たちの声が遠くに聞こえた。
―—――—――—―
たどり着いたのは学校の近くの公園。
その隅にある、大きな桜の木の下。
遠くで子どもたちが遊ぶにぎやかな声が聞こえる。
「はぁ・・・はぁ・・・。ここまで来たらあいつらも追ってこねぇだろ。」
「ケガしてねぇか?」私を木にもたれて座るようにうながして、RTBは全身で息を整えながら声をかけてくる。
「うん、大丈夫、ありがと・・・。」
「たっく、相変わらず人騒がせなやつだぜ・・・。」
「う、うるさいわね!」
ずっとRTBを握りしめていたことに気が付いて、慌てて手を離す。
ふと、RTBのマットブラックな身体に小さな傷がついているのが見えた。
「え、RTBケガしてない?大丈夫!?」
「ああ、さっき走った時に長さ固定ネジの先で傷ついたみたいだな、気にすんな。」※

何でもない様子で話すRTB。
どうしよう、私のせいでケガさせちゃっった・・・。
申し訳なくて涙があふれてくる。
「おいおい!泣くなよ!大丈夫だから。」
「だって私のせいで・・・。」
泣きながら傷をさする私の頭をおろおろと長さを伸縮させて撫でるRTB。
その先端に、小さな穴もみえた。
「しかも穴もあいてるじゃん・・・!!」
「ああ・・・これは子どものころについた穴だよ。」
子どもの頃、黒い穴・・・。
「もしかして、あんた・・・。」
思い出した。
小さい頃、公園でガキ大将の男の子にからかわれていた時
泣いていた私を身を挺して守ってくれた黒いつっぱり棒。
あの時、つっぱるために穴があいてしまって。
その穴を見て痛そうだとさらに泣く私に「つっぱるために穴は開くもんなんだよ、勲章だからな。」と教えてくれた・・・。※
私の、淡い、甘酸っぱい、思い出。

「あの時の、つっぱり棒・・・??」
「お前・・・覚えてたのか、あの時のこと。」
RTBは長さ固定ネジをくるくると回し、冷静な口調で言う。
「どうして言ってくれなかったのよ・・・!」
「そりゃ、あの時もあんだけ泣かれたんだから、この穴みたら心配するかなって。穴なんか何個空いても問題ないのに、お前は泣き虫だからな。※」

「もう、お前のことは泣かせたくねぇんだよ・・・。」
「え・・・?」
「なんでもない。ほら、早く帰るぞ。」
「う、うん。」
「泣き疲れたからって明日また授業中に寝るんじゃねぇぞー?」
「うるさいわね!」
「お、泣き止んだじゃん。やっぱそっちの方がいいわ。」
やっぱりこいつは、いけ好かない。
いけ好かない。でも、いい奴だ。
「・・・なあ。」
RTBがこちらに近づいてくる。
立ち上がるために手を貸してくれるのかな?と思ったら、そのまま私の耳元辺り、後ろの木にキャップをつっぱった。※
これって・・・壁ドン・・・?

突然の出来事に声を出せずにいる私。
その耳元で、RTBは静かな声で囁いた。
「雑誌のモデルなんかより、俺みたいなやつの方がいいと思わねぇ?」

「え・・・?」
ふいに、子どもの頃のお母さんの言葉がよみがえった。
『確かにかっこいいけれど、突然現れる王子様より、ずっとあなたに寄り添ってくれる人の方が幸せになれるんじゃないかしら?現実はそんな人の方が頼りになるもんよ。』
それって、もしかして・・・。