暮らすがえジャーナル

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「新しい人や物語に出会いたい」脱サラ古物商が”癖品(くせじな)”を集める理由

こんにちは、暮らすがえジャーナルです。

滋賀県八日市の閑静な住宅地の中にある古物ショップ「延命ランド」

階段をあがり、ドアを開けると素敵な古着から独特なオブジェ、はたまた誰かの顔写真が入ったマグカップまで「なんだこれ?」と言いたくなるような、”癖品(くせじな)”が並んでいる。

オーナーの猪熊さんはサラリーマンを辞めてこの古物ショップを始めたのだそう。

一見すると暮らしには「要らないモノ」かもしれないアイテムたちをどうして集めているのか、お話を伺いました。

猪熊 雅仁 さん

古物ショップ「延命ランド」オーナー。会社員として働いた後独立し、滋賀県八日市で「延命ランド」をオープン。癖品(くせじな)を集める古物商。

Instagram:

enmei_land

――なんだか、いろんなオブジェが置いてありますね。

僕が”ヤバい”と思ったものを集めています。”ヤバい”を具体的に言語化するのは難しいのですが…
例えばこれ、子どもの作品っぽいんですけど。

――なんでしょう、リス??どんぐりっぽいものを持っていますね。

ね、なんだか見れば見るほどじわじわ来る表情をしていませんか?
しかもなぜかメタリックな加工までされているんですよ。意味が分からないですよね。

――確かに、そうやってお話を聞くとなんだか味わい深くなってきますね。

最初は、直観的に「なんだこれ」と思ったものを集めていたのですが、そのアイテムが作られた背景を知ったりするとより面白いなと思いますね。いろんな方から商品を仕入れるうちに、仏像や陶芸の技法とかも勉強するようになって、最近は技術的に”ヤバい”と思ったものも集めたりもしています。

――なるほど、そのアイテムにこめられた背景を面白いな、と思うんですね。

そうですね、「これは何だろう?どんな使われ方をしていたんだろう?」って調べているうちに、どんどん興味がでてくるんです。

古物には物語があるんですよ。

過ごしてきた環境で劣化していたり風合いが変化していたりすると、「こいつはどんな経験をしてきたんだろう」って思うし、「誰がどうして作ったのかな」とか、「このキズはなぜついたのかな」とか。

その物語も勝手に想像してしまいます。

――どういったお客さんが買いに来られるのですが?

いろんな方が来られますが、無意識的にかもしれないけれど、ちょっと暮らしに変化や何かしら影響を与えたい人が多いんじゃないかな。

こういうモノって、無くても生活に支障はないけれど、それをわざわざ置くことで、多少なりとも暮らしに影響を与えるんじゃないかなって思うんですよね。自分が「ヤバい」「面白い」と思った物語をもつアイテムが家の中にある。

それを眺めて生まれるのは、何かのデザインのアイデアかもしれないし、無意識な変化かもしれない。「変な顔だな」って肩の力が抜けるような、小さな変化かもしれないし、もしかしたら人生に影響を与えるくらい大きな変化かもしれない。

もちろんそれは、手にしたお客さん次第なんですけど、きっと、そういう変化が生まれているんじゃないかな。

――とても面白いです。猪熊さんは、もともと会社員だったのですよね、どうしてこのお店を始められたんですか?

そうですね、最初は大学を卒業して、彦根で会社員をしていました。でも、同年代の友達がそこではできなくて。学生時代は大阪に住んでいたので、週末はわざわざ友達のいる京都や大阪のクラブやバーで遊んでいたんです。そこで一緒に遊んでいた友人に勧められて、駅前の複合商業施設で週末だけのお店をはじめたのが、今にいたるきっかけですね。

最初に「延命ランド」を開業した複合商業施設『Honmachi93』

――その中でも、どうして古物だったのでしょう?

実は、当時は古物商にも雑貨にも特に興味はありませんでした(笑)

――え、そうなんですか?

何か漠然と将来自分でお店はやりたいなと考えていたのですが、どんなお店にしたいかまでは考えていなくて。

たまたま近くに安くモノを買えるところがあったので、そこで仕入れたモノを販売したのが最初です。

そこから、会社を辞めて、試行錯誤していく中で、変わったモノや変なオブジェばかりを集めるお店にしてみようと思って、商品を集め始めました。

――意外です。「お店を持ちたい」が最初だったんですね。

お店というより、人が集まる場所をつくりたかったんですよね。

僕、気の合う仲間と過ごしたり、そこから新しい人や自分の知らないモノに出会うのが好きなんです。

会社員の頃も、気の合う人や新しいモノを教えてくれる人と出会いたくて、長期休暇を使ってゲストハウスに住み込みで働いてみたりもしていました。

そんな風に、新しい出会いができる場所を作りたいというのが、お店を持ちたかった理由ですね。

――モノを売りたいではなく、新しいことに出会いたかったんですね。

自分が知らなかったことに出会うって楽しいじゃないですか。例えば、魚に詳しい人に出会って、地元の魚について教えてもらったら、スーパーで買い物するときにその魚が無いか気になりますよね。そんな風に日常生活がちょっと楽しくなる。

今ではポップアップショップなど、出張販売させていただくことも増えましたが、それでも店舗を持ちづけたい理由はそこにあります。この場所で、新しい出会いを作りたい。

そのためにこの店でイベントを企画したりもしています。

そういう意味では、古物も最初は興味がありませんでしたが、知れば知るほどそこに自分の知らない物語がたくさんあって、どんどんハマっていきました。

だから、ついつい変だなって思うオブジェを集めてしまうのかもしれません。

――古物も人も、新しい出会いが広がっていくことが猪熊さんらしい暮らしなのですね。今後の夢はありますか?

やはり知らない誰かと知らない誰かが出会う場所をつくりたいので、イベントもしたいですね。

この店でいろいろな出会いがあると嬉しいですし、僕もまだまだいろいろな人と出会いたいし。

もっと尖ったモノを置いていきたいとも思っていて。延命ランドでしか見ることができない、そういうものをもっと深く集めていきたいです。

僕が面白いなって思って集めているモノを、お客さんもそれぞれの感覚や解釈で面白いと思ったり可愛いと思ったり、何か感じて、家の中に置いてくれたら嬉しいですね。

まさか自分がなるだなんて思いもしなかった古物商ですけど、今は、この仕事をずっと続けていきたいと思っています。

編集後記

一見すると「なんだこれ?」と思うようなオブジェたち。
それらは、家電や収納のように、なくても生活に何か支障があるものではない。
では、暮らしには必要ないものなのか。

お店のアイテムを眺めながら、猪熊さんに「これは何ですか」と聞くと、古物一つ一つの物語をそれは面白そうに楽しそうに教えてくれる。
きっと、そんな物語に囲まれる暮らしは、日々の生活に、ささやかなインスピレーションや新しい出会いをもたらしてくれるだろうなと感じました。

誰かにとっては必要じゃなくても、私にとってのお気に入りなら、きっと豊かで私らしい。

さあ、暮らすがえ。