暮らすがえジャーナル

平安伸銅工業がお送りする、連載コラム。
私たちのビジョン「アイデアと技術で『私らしい暮らし』を世界へ」にある「私らしい暮らし」について、深堀していきます。
衝動に導かれて、姫路の無人本屋へ。
電動キックボードが途中でバッテリー切れを起こした。
それだけのことだったはずなのに、大きな流れを変えるきっかけになっていた。
キックボード片手に歩いて出会った物件を前に、「本屋をやってみたい」と思った。
理由なんてうまく説明できない。ただ、その瞬間に「やりたい」と思っただけ。
だから、まずは無人の本屋ってどんなものか、見に行ってみることにした。
調べてみたら、「二階町三番地書店」という無人本屋が姫路にあるらしい。
電車で2時間、乗り換えは3回。普通だったら「ちょっと面倒だな」と思うけど、その日はなんだか気持ちがまっすぐで、その衝動のまま姫路まで行ってみることにした。

本屋は、姫路の駅から少し離れた商店街の一角。
人通りは少なく、少し寂しさも感じる場所にぽつんとあった。
中に入ると、たった4.5畳。大人が2人いたら、ちょっと気まずくなるくらいの狭さ。
値札をはがして、所定の箱に入れる。そんなふうに本を買うシステムらしい。
社会や暮らしにまつわる本が並んでいて、1時間弱、気の向くままにページをめくり、数冊を手に取った。
机の上には、訪れた人の感想ノートが置かれていた。開いてみると、老若男女、全国からやってきた人たちの言葉が書かれている。
なんだか、それだけで胸が熱くなった。
本屋って、場所以上の何かになれるんだ。
生きづらさを抱えた人が、ただ“いられる”場所
その無人本屋の問い合わせ先が、二軒隣の「そらにじひめじ」というコミュニティスペースだということを知った。
どういう思いで立ち上げたのか気になる。突撃ではあるが、訪問することにした。

「そらにじひめじ」はLGBT、ひきこもり、心の病、生活のしんどさ――言葉にならない生きづらさを抱えた人たちが、気軽に立ち寄れる場所だ。
2016年に、姫路のLGBT交流会から始まったこの場所は、「特定の誰かのため」ではなく、「生きづらさを持つすべての人」のための居場所として存在している。
ふらっと足を運んでみた。中には5人ほどの男性が談笑している。
少し躊躇していると、奥からひとりの男性と猫が出てきて、あたたかく迎えてくれた。
説明書を読むと、1日300円で、何時間でもいていいらしい。
お茶もお菓子も、ご飯もある。働けなくても、診断がなくても、長期の支援が受けられなくても――ここには「いていいよ」と言ってくれる空気がある。
壁には、キース・ヘリングの塗り絵が貼られていた。彼がエイズで亡くなったこと、命の終わりまで支援活動を続けていたこと。その背景を思いながら、じっと見つめてしまった。
そこに、ラブリコがあった。
ふと本棚を見上げると、見覚えのある構造。
「あ、ラブリコだ…。」
思わず声に出てしまった。
平安伸銅工業の人間として、その存在が使われていることがとても嬉しかった。
運営されている方も「ラブリコ、めっちゃ使ってます」と笑顔で話してくれた。

奥のスペースも案内してもらう。
階段から猫が落ちないようにと、ラブリコで作った柵も見せてくれた。
丁寧で、やさしいつくりだった。
「飾らないでいられる場所をつくる」
それはまさに、私たちがずっと伝えたかった「私らしい暮らし」のかたちだった。
整理収納やデザイン性だけじゃない。
人が安心して、自分のままでいられる空間こそ、暮らしの土台だと実感した。
でも、希望していた物件からは断りの連絡が…
その帰り道。南吹田の空き物件について、問い合わせた不動産会社からメールが届いていた。
「すでに3名から申し込みがあり、おそらくそちらが契約になると思います」
やんわりとした、でもはっきりとしたお断りのメールだった。
せっかく「本屋をつくろう」と思った矢先だったのに。
でもホームページには、琥珀街にとってふさわしい方に入ってもらいたいと不動産会社は考えていて、審査が必ずしも先着順でなさそうだった。
ということは、見込みが少なくとも4番手として申し込みすることは可能ではないか。
「南吹田琥珀街がさらに活性化できると自負しています。」
と一文を書いて、再度、アポイントの交渉をしてみた。